休眠担保権の抹消について

○休眠担保権とは

 ご先祖さまから代々相続してきた土地や建物の登記記録を調べていると、かなり昔に設定された抵当権の登記を見かけることがあります。なかには明治時代の抵当権で、債権額が「金100円」、利息が「月金1円に付金1銭(=年利12%)」、抵当権者が「何某権兵衛」といった、時代を感じさせるものもあります。このような古い抵当権や根抵当権、質権などを「休眠担保権」といいます。休眠担保権の登記は、そのまま放置しておいても実害はないともいえますが、その土地を売却したり、新たに抵当権を設定してお金を借りたりする際には、支障が出ることもあります。

 休眠担保権の登記が残っている理由としては、借金の返済により担保の対象となっていた債権(被担保債権)は消滅したものの、抵当権等の登記の抹消をしないまま放置していた場合と、借金は返済していないのに債権者の方が回収を諦めてしまったり、債権者の死亡後にその相続人が債権の存在を知らなかったりして、そのまま消滅時効の期間が経過したような場合があります。

 ちなみに、法的には被担保債権が弁済や時効の援用により消滅すると、抵当権自体は「当然に消滅」します。しかし抵当権の登記は抹消申請をしないと、そのまま残ることになります。そのため、借金を返済してからすぐに抵当権の登記の抹消申請をすればいいのですが、それをしないまま長年放置すると、お金を貸し借りした当事者が亡くなってその後何世代も経っているとか、会社の場合には倒産したり吸収合併されたりして消滅してしまったようなときには、誰が申請人となってどのように抹消申請をすればいいのかが問題となります。

○休眠担保権を抹消するには

 抵当権などの担保権の登記を抹消するためには、原則として、最初にお金を貸した人(Yさん=担保権者)と、お金を借りる際に担保を提供した人(Xさん=担保権設定者)との共同で申請する必要があります。しかし、その際に、Yさんがすでに亡くなっているような場合には、Yさんの相続人全員とXさんとの共同で申請する必要があります。ただし、Yさんが亡くなった後でXさんが借金を返済した場合には、まずYさんの抵当権を相続人名義に移転する登記を申請してから、抵当権の抹消登記を申請することになります。一方、Xさんが亡くなっている場合には、その担保を設定している不動産の相続による所有権移転登記を申請してから、抵当権の抹消登記を申請することになります。

 ところが、抵当権が明治時代に設定されたようなものである場合、Yさんはとっくの昔に亡くなっているでしょうし、その相続人ですら、すでに亡くなっている可能性があります。そうなると、Xさんからその不動産を受け継いだ人は、Yさんの相続人全員を捜し出して抵当権の抹消登記を申請しなければならないことになります。また、その申請の際にはYさんやその相続人全員の戸籍謄本等を集めて提出する必要もあり、かなり大変です。

 そこで、このような場合には、XさんがYさんから借りた元金・利息・遅延損害金の全額を法務局に弁済供託して、Xさんからその不動産を受け継いだ人(所有権登記名義人)が単独で、その抵当権の登記を抹消するという方法があります。ちなみに、明治時代の抵当権の元金・利息・遅延損害金の全額を払うとなると、かなり高額になってしまうのではという心配をされるかもしれませんが、当時と今とでは貨幣価値が違います。例えば、元金が100円で利息が年利12%の場合、1年間の利息は12円ですので、弁済期から100年が経過していたとしても、元金と利息の合計は1300円にしかなりません。

 この方法を利用するには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
(1)先取特権・質権・抵当権に関する登記の抹消を申請する場合
(2)担保権者等が行方不明であるため、共同申請ができない場合
(3)債権の弁済期から20年を経過している場合
(4)債権・利息・遅延損害金の全額を供託した書面を添付する場合
なお、担保権者が法人である場合には「行方不明」の認定がされにくいため、この方法を利用することは難しくなります。

 そのほかに、裁判所に対して公示催告の申立てを行い、除権決定を受けて、所有権登記名義人が担保権抹消登記を申請する方法もあります。また、担保権者やその相続人全員の所在は分かっているが、手続きに協力してくれないような場合には、担保権者等に対して裁判を起こして勝訴判決を得たうえで、担保権抹消登記を申請する方法があります。しかし、いずれにせよかなり大変な手続きとなりますので、抵当権などの担保権の登記は、借金の返済をした段階で速やかに抹消することが必要です。また、すでに休眠担保権が残っている不動産をお持ちの方は、それをさらに子孫の代に持ち越すのではなく、自分の代できちんと抹消しておくことをお勧めいたします。

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