空き家の相続について
○空家等対策特別措置法について
総務省の2018年度の調査によると、総住宅数に占める空き家の割合は13.6%にも達しています。一口に空き家と言っても、きちんと管理されている空き家と、そうでない空き家とがありますが、管理されないまま「お化け屋敷」のようになっている空き家は、単にその空き家の所有者や相続人にとってのみならず、地域や社会全体の重荷となってしまうことがあります。今や空き家の増加は、その所有者や相続人にとってのみならず、社会全体の問題となっています。
そのため、このような状況を少しでも改善するために、2015年5月から、「空家等対策特別措置法」が全面施行されました。この法律では、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空き家(特定空き家)について、市区町村長は、空き家の所有者等に対して、空き家の修繕や除却、樹木の伐採など、必要な措置を取るよう「助言」「指導」「勧告」「命令」をすることができるようになりました。
「指導」を受けても状況が改善されない場合は「勧告」を受けることになりますが、「勧告」を受けると固定資産税の優遇など住宅特例から除外されることになります。さらに、「勧告」にも従わなかった場合は「命令」が出されますが、この「命令」にも従わないと50万円の過料が課されることになっており、さらにそれでも従わない場合には、市区町村の権限で特定空き家等を強制撤去することになります。そして、撤去費用は所有者から徴収されることになります。
○空き家を相続するリスク
一昔前の日本であれば、親と子(とくに長男夫婦)の2世帯が実家で同居し、親が亡くなった後は、同居の子が実家を相続することが多かったといえます。しかし、近年は核家族化が進み、子が就職や結婚などに伴って親とは別居し、そのまま実家とは離れた場所で新たに一戸建て住宅を新築したりマンションを購入したりすることが多くなっています。その結果、実家には高齢の父母のみが暮らし、父母が共に亡くなった後は、実家が誰も居住しない空き家となってしまうというケースが増えています。そして、空き家を相続した相続人にとって、この空き家の管理が重荷になってしまうことがあります。
空き家のほとんどは老朽化により耐震性が不足していることが多いので、防災上の問題があります。もし空き家が倒壊すると、周囲の建物や施設を巻き込んでしまったり、通行人にけがをさせたり、避難経路をふさいでしまう危険性があります。また、犯罪者の隠れ家として利用されたり、放火されたりするなどの防犯上の問題もあります。さらに、敷地内にゴミが不法投棄されたり、ネズミやゴキブリの棲家となってしまったりするなど衛生上の問題もあります。特に、庭付きの家であれば雑草が繁殖し、ハエやカが大量発生することもありえます。当然、近所や町内会からの苦情も届きます。
空き家の管理ができなくなる理由として、所有者が遠方にいて定期的な管理ができない、居住者の死亡や相続人の不存在による管理不全、所有者が補修や解体の費用を負担できないなどが挙げられます。しかし、空き家の管理に問題があることにより他人に損害を与えてしまったときは、第1に占有者が、第2に所有者が、被害者に対してその損害を賠償しなければなりません。そして、所有者の賠償責任には免責事由がありません(無過失責任)。
空き家を売却したり、解体して更地にしたりしてしまえば、このような問題のいくつかは解決するかもしれません。しかし、それでは実家を相続した意味がありませんし、自分たちが育ってきた実家を他人に売り渡したり取り壊したりすることに対する心理的な抵抗感、実家の中にある神棚や仏壇をどうするかの問題、家の中を片付けようにも思い出の品物が出るたびに手が止まって片付かないという問題、他の親族やご近所に何を言われるかわからないという問題があり、実際にはなかなか踏み切れないことでしょう。さらに、建物を解体してしまうと土地の固定資産税の優遇措置が受けられなくなるため、税額が最大で6倍になってしまうという問題もあります。
○空き家を相続したら
そのため、空き家となった実家を相続する際は(1)居住(2)維持(3)売却(4)賃貸(5)解体などの選択肢を検討した上で、将来を見越した対応をすることが大切です。このうち、売却や賃貸をする場合には、その地域の不動産業者のほか、各自治体やNPOが行っている「空き家バンク」という制度を活用する方法もあります。
(1)居住
空き家となった実家に相続人が引っ越して、あらたに居住するという方法です。しかしながら、実家が老朽化していてリフォームに多額の費用がかかる場合や、そもそも、実家が相続人の現住所と離れすぎていて、実家からでは通勤が困難であるような場合は、現実的ではないことになります。
もっとも、近年では社会情勢の変化により在宅勤務者が増加していることから、都会のマンションを離れて地方に移住する方も増えているため、実家への回帰も選択肢の一つとして見直されています。
(2)維持
実家には誰も居住しないままではあるものの、帰省した際の宿泊先や倉庫として利用するなどして、当面はそのまま維持していくという方法です。ただし、一般に家は空き家になると荒れやすいので、定期的に掃除や換気をするなどして、手入れをする必要があります。また、実家に庭があれば水やりや草取りなども必要となります。さらに、雪国であれば除雪も必要となります。そのため、実家が遠方に会って定期的に様子を見に行ける相続人が誰もいない場合は、専門の業者や近所の人に管理を依頼するなどの方法も検討する必要があります。そうしないと、「維持」ではなく「放置」となってしまい、家の老朽化や倒壊、衛生状態の悪化により近隣に迷惑をかけてしまうおそれがあります。
(3)売却
空き家となった実家を売却して、売買代金を相続人で分配するという方法です。ある意味ドライな方法ですが、一番スッキリと片付く方法でもあります。もっとも、一番の問題点は、その家が売れるかどうかです。これは、その家の状態や立地によります。建物が多少ぼろくても、都会の一等地にあれば、土地としては売れるでしょうし、建物の解体費用を負担できなくても、買取業者などが買ってくれる可能性はあります。しかしながら、過疎地にある家では、建物が立派でも、なかなか買い手が現れない可能性があります。
また、この場合は、当然のことながら、実家にある神棚や仏壇、家具や生活用品、各種の遺品などを、何らかの方法で片付ける必要があります。
(4)賃貸
空き家となった実家を他人に貸して、賃料を得る方法です。また、改装して民泊用の施設にする方法もあります。しかしながら、この方法も、そもそも借り手が現れるかという問題があります。これも、その家の状態や立地によります。また、建物の固定資産税の納税や大規模修繕などは家主が行いますので、それに見合う家賃を払ってもらえるかが問題となります。ただし、固定資産税や修繕費は家が空き家であってもかかるので、それよりは誰かに住んでもらった方がましだという考え方もあります。
なお、この場合も、実家にある神棚や仏壇、各種の遺品などを片付ける必要がありますが、家電製品や家具などは、状態が良ければそのまま賃借人や民泊の宿泊者に使ってもらう選択肢もあります。
(5)解体
空き家となった実家を解体して更地にする方法です。この場合、解体費用の捻出や、家の中にある神棚や仏壇、各種の遺品などを片付ける必要があります。ただし、土地が更地になると固定資産税の優遇措置が受けられなくなるため、税額が最大で6倍になってしまうという問題もあります。
更地にしたあとは、駐車場などに転用するか、売却するか、他人に貸すかなどの選択肢があります。