相続不動産の共有について
○共有不動産の発生原因
不動産の所有者が亡くなった場合、その被相続人に遺言がなく、相続人が複数いるときには、誰がどの不動産を相続するのかを遺産分割協議で決めることになります。こうした場合に、自宅は配偶者、田畑や山林は長男、賃貸アパートは二男といった具合に、それぞれが各不動産を単独で相続するような遺産分割がまとまればいいのですが、様々な事情により、不動産を共有で相続することもあるようです。
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができます。例えば建物を共有する場合、各共有者は建物の全部を使用することができます。持分というのはその共有物に対する権利の割合ですが、持分が2分の1だからといって2階建ての建物の1階部分しか使用できないとか、東半分しか使用できないということはありません。その上で、この建物が別荘であれば持分の割合に応じた日数だけ利用するとか、賃貸アパートであれば家賃収入を持分の割合に応じて分け合うといった具合に、その使用や収益の方法を共有者同士で話し合って決めることになります。
遺産相続では共有の形態は2種類あります。ひとつは「遺産分割未了共有(未分割共有)」といいます。被相続人が亡くなると、その瞬間から被相続人が有していた不動産その他の財産は(被相続人に遺言がない場合は)、その法定相続人全員の共有状態となります。しかし、これはあくまで暫定的な状態ですので、通常は相続人全員による遺産分割協議により、誰がどの財産を単独で相続するのかを決めることになります。
もうひとつは「民法上の共有(共有分割後の共有)」です。これは、遺産分割協議を行った結果として、あるいは家庭裁判所での遺産分割調停や審判を経て、ある不動産については相続人であるAとBとで共有すると確定的に決めたような場合です。このような共有が行われる事情としては、被相続人には自宅以外にめぼしい財産がなく、また、自宅を相続したい相続人も、他の相続人に十分な金額の代償金を支払う経済力がない場合、被相続人が所有していた不動産のうちの一つが、他の不動産と比較して突出した優良物件である場合、あるいは相続税の申告期限が迫るなかでも遺産分割協議がまとまらず、とりあえず共有にしてしまえといった場合などがあります。
○不動産の共有リスクについて
不動産の共有相続は、例えば、相続税の納付資金を捻出するために売却する予定の不動産をいったん共有名義にするという場合や、亡くなった父が所有していた不動産をいずれは長男が単独で相続する予定であるが、相続税や母の生活の問題から、とりあえずは母と長男での共有としておいて、母の死亡後にはその持分を長男が相続して単独所有とするような場合であれば、それほど問題はありません。
しかし、兄弟姉妹間での不動産の共有相続は、絶対に避けるべきだと思います。なぜなら、「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない」とされており、この「変更」には売却や担保の設定が含まれます。そうすると、例えば、共有者の一人が生活費に困り、その不動産を売却するか、担保を設定してお金を借りたいような場合でも、他の共有者が一人でも反対したり、価格についての意見が食い違ったりすると、話が進まないことになります。
そして、このような場合、共有者の一人は、自分の持分のみを売却したり、担保に提供したりすることもできますが、相手方が限られてくる上に評価額も安くなってしまいます。また、他の共有者は見知らぬ他人(業者)と不動産を共有することになります。そして、各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます。共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することもできます。この場合、例えば建物のように、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができます。そうすると、結局は相続人全員が、共有相続した不動産の持分をすべて失ってしまうことになります。
また、建物の場合には管理や修繕費用の分担の問題、賃貸物件であれば家賃の値上げや値下げの問題もあります。「共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」とされていますが、例えば持分が各2分の1で共有されている場合は、共有者同士の意見が異なると、どちらも過半数をとれず何も決められないことになります。
さらに、各共有者について相続が発生すると、その持分も子供の代、孫の代と相続されることになるので、共有者の人数も増え、親族関係も疎遠になっていくことから、ますます収集がつかなくなってしまいます。このように、不動産の共有相続は、別名を「共憂」というくらいに厄介なものなのです。