土地の境界問題について
○土地の境界問題について
1.土地の境界の種類
父母が亡くなり、空き家となった実家の土地建物を売却する際に、その土地の隣地との境界がはっきりしていないという問題に直面することがあります。境界がはっきりしない土地を売ることは、不動産業者に敬遠されることも多いため、通常は困難です。そのため、隣地の所有者との間で境界を確認することになりますが、なにしろ、こちらは事情を知っていた父母がともに亡くなっているため、隣地の所有者との間で主張に食い違いがあると「死人に口なし」で不利になることも多く、解決が難しいこともあります。
ところで、土地を数える時の単位を「筆(ひつ)」といいます。また、土地の境界は「公法上の境界」である「筆界(ひっかい)」と、「私法上の境界」である「所有権界」とに分けられます。
「筆界」とは、土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線のことで、例えば、「金沢市小金町163番地」の土地と、これに隣接する「164番地」の土地との境界線のことです。法務局にある地図や公図、地積測量図に表されている境界線は全て筆界です。また、土地の登記簿に載っている地積も筆界をもとに算定されています。なお、筆界のルーツは明治維新後の地租改正に遡りますが、もともとは国家が税収を確保するために制定した区画ですので、所有者同士の合意などによって勝手に変更することはできません。筆界を新たに形成したり変更したりすることができるのは裁判所の確定判決と、法務局の登記官が行う、一筆の土地を数筆の土地に法的に分割する「分筆(ぶんぴつ)」と、隣接する数筆の土地を一筆の土地に法的に合体する「合筆(ごうひつ・がっぴつ)」のみとなっています。
これに対し、「所有権界」は、文字通り所有権の範囲を画する線のことで、例えば「Aさんの所有権の及ぶ土地の範囲」と、その隣人の「Bさんの所有権の及ぶ土地の範囲」との境界線のことをいいます。所有権界は、所有者同士の合意があれば変更することが可能です。
この「筆界」と「所有権界」は一致することが多いのですが、一筆の土地の一部を売買したにも関わらず分筆がなされていない場合や、一筆の土地の一部が時効により取得されたような場合、あるいは、ある土地が凸型で、その隣地が凹型の場合に、双方の土地の所有者の合意によりその土地の出っ張りの部分を交換したような場合には、一致しないこともあります。
2.土地の境界争い
そして、筆界と所有権界が一致しない土地は、その売買や交換をした当事者がお互いに生きている間はいいかもしれませんが、そのような事情を知らない相続人の代になると、境界を巡って争いになる可能性が高いといえます。そのため、過去の経緯を知っている者同士が生きているうちに、分筆や合筆などの方法によって筆界と所有権界を一致させておくことが必要となります。
一方、筆界と所有権界が一致するはずの土地についても、筆界を定めている法務局の公図の精度が非常に低かったり、現況と明らかにずれていたりすることから、筆界を現地に反映させて判断することが難しいことも多いようです。これは、地域によっては明治時代につくられた地図をいまだに公図として利用しているためです。特に、関東地方、中部地方、近畿地方では地籍調査の進捗率が低いため、精度の高い公図の整備がなかなか進んでいないのが現状です。なお、土地の境界をめぐる紛争のほとんどは「筆界不明」によるものです。
3.土地の境界がはっきりしない場合の対処法
土地の境界を確定させるためには「境界確定測量」を行う必要がありますが、それには隣地の所有者の立会いが必要となります。しかし、隣地の所有者の中には立会いに協力してくれない人や、行方不明の人や認知症の人がいる場合があります。さらに、隣地の所有者が亡くなっている場合は、その相続人全員を捜し出して、その土地を誰が相続したのかを確認する必要がありますが、相続人同士が争っている最中で、なかなか決まらないような事例もあります。このような場合は、境界確定測量にはかなりの時間と費用がかかります。そして、隣地の所有者の協力が得られないような場合には、法務局の「筆界特定制度」を利用するか、または裁判によって決着をつけることになります。
したがって、隣地との境界確認書(測量図付き)が手元にない場合や、土地に境界標が設置されていないような場合には、その土地の所有者がまだ元気なうちに、土地家屋調査士に依頼して境界確定測量と境界標の設置をしてもらうことが必要です。ちなみに、土地家屋調査士業界では、これを「杭を残して、悔いを残すな」と述べているようです。なお、境界標の管理は、土地の所有者が亡くなった後のことも考えて、家族全員で行うべきです。また、登記簿上の面積と実測の面積が違っているような場合には、地積更正登記をしてもらうことも必要です。なお、地積更正登記に添付する地積測量図は、法務局で永久に保存されます。