配偶者居住権とは

○配偶者居住権とは

1.配偶者居住権とは

 2018年7月の民法改正により、新たに「配偶者居住権」という権利が創設されました。配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、被相続人が所有していた建物について、その所有権を相続しなくても、被相続人の死亡後も無償で住み続けたり、収益を得たりすることができる権利です。

 従来は、夫(妻)を亡くした妻(夫)が子と遺産分割を行う際に、子が法定相続分を主張すると、妻(夫)が夫(妻)名義の家の所有権を相続することによってその他の遺産(現金や預貯金など)の取り分が少なくなり、老後の生活資金が不足してしまうという問題がありました。

 例えば、被相続人である夫の遺産が自宅(評価2000万円)と預貯金(金額3000万円)で、相続人がその妻と長男の2名だったとします。この場合、民法の法定相続分に従った遺産分割を行って、妻が自宅(評価2000万円)と預貯金のうちの500万円を、長男が預貯金のうちの2500万円を相続すると、妻は自宅の所有権を単独で取得することはできるものの、預貯金は500万円しか取得できないことから、老後の生活資金が不足してしまうおそれがあります。

 そこで、夫(妻)を亡くした妻(夫)が夫(妻)の死亡時に夫(妻)名義の建物に住んでいた場合に、妻(夫)は夫(妻)の遺言もしくは他の相続人との遺産分割により、その家の所有権ではなく、その家に終身もしくは一定期間無償で居住し続ける権利(配偶者居住権)を取得することができるようになりました。配偶者居住権は所有権よりも財産評価が低いので、この制度を活用することにより、夫(妻)を亡くした妻(夫)は自宅以外の遺産の取り分を増やすことができます。

 前述の例では、遺産分割協議によって自宅(評価2000万円)に配偶者居住権を設定して、妻はその配偶者居住権(仮に評価800万円とします)と預貯金1700万円を取得し、長男は配偶者居住権の負担の付いた自宅(評価額2000万円から配偶者居住権の評価800万円を差し引いた1200万円相当)と預貯金1300万円を取得します。こうすることで、妻は自宅での生活を継続しながら、その他の財産も取得することができるようになります。

2.配偶者居住権の取得方法

 被相続人の配偶者が配偶者居住権を取得するためには、まず、 (1)相続開始時に被相続人が所有する建物(居住建物)に住んでいた場合 (2)その居住建物が被相続人の単独所有もしくは被相続人と配偶者の共有であること の「双方を満たす」必要があります。

 そのうえで、 (1)遺産分割(協議・調停・審判)によって配偶者が配偶者居住権を取得するものとされたとき (2)被相続人が遺言で配偶者に配偶者居住権を遺贈するとしていたとき の「いずれかに該当する」ときは、配偶者はその居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利(配偶者居住権)を取得することができます。

 なお、配偶者が居住建物の配偶者居住権を取得したあとで、その配偶者がその居住建物の所有権全部を取得した場合は、配偶者居住権は消滅しますが、その居住建物の共有持分を取得した場合(つまり、他の人と共有している場合)は、配偶者居住権は消滅しません。

3.配偶者居住権の存続期間

 配偶者居住権の存続期間は、原則として終身、つまり、その配偶者が死亡するまでです。

 ただし、遺産分割協議や調停、審判で期間を定めた場合、あるいは遺言で期間が定められていた場合は、その内容に従いますが、その期間が満了する前に配偶者が死亡した場合は、その死亡時点で配偶者居住権は消滅します。

4.配偶者居住権の評価方法

 配偶者居住権の評価方法は、結構複雑です。まず、配偶者居住権の評価額を決める基本的な要素を説明します。

(1)居住建物の相続税評価額

 居住建物の相続税評価額は、その居住建物の固定資産税評価額に1.0を乗じて計算します。 要するに、固定資産税評価額と同じ金額です。

 なお、居住建物の評価額が高ければ、その分だけ配偶者居住権の評価額も高くなります。居住建物の評価を決めるのは、その建物の構造・床面積・築年数・立地などです。

(2)耐用年数・経過年数・存続年数

〔耐用年数〕

 建物の耐用年数は、一般的には鉄筋コンクリート造の建物では長く、木造の建物では短くなりますが、配偶者居住権を評価する場合の耐用年数は、所得税の法定耐用年数を1.5倍(6月以上の端数は1年とし、6月に満たない端数は切り捨てます)したものを用いて計算します。

 なお、店舗併用住宅などの非居住用部分が存する居住建物についても、居住建物の全部が「住宅用」であるものとして計算します。

〔経過年数〕

 経過年数とは、居住建物が建築された日(新築時)から配偶者居住権が設定された時までの年数をいいます 。 なお、居住建物が相続開始前に増改築された場合であっても、増改築部分を区分することなく、新築時から配偶者居住権が設定された時までの年数で計算します。

〔存続年数〕

 存続年数とは、「配偶者居住権が存続する年数として政令で定める年数」をいうものとされています。具体的には、次の⑴又は⑵の場合の区分に応じ、それぞれ⑴又は⑵に定める年数をいいます。

⑴ 配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身の間とされている場合 配偶者居住権が設定された時における当該配偶者の平均余命(配偶者居住権が設定された時の属する年の1月1日現在において公表されている最新の完全生命表によります)。なお、完全生命表に当てはめる配偶者の年齢は、配偶者居住権が設定された時における配偶者の満年齢によります。

⑵ 上記⑴以外の場合 配偶者居住権が設定された時から配偶者居住権の存続期間満了の日までの年数(配偶者居住権が設定された時における配偶者の平均余命を上限とします。)

 要するに、存続年数は配偶者居住権があと何年位存続しそうかという予測年数で、存続期間が「終身」の場合は、平均余命(露骨な表現をすれば、その配偶者があと何年位生きられそうか)です。当然、若くして配偶者居住権を取得した配偶者の場合は存続年数は長くなり、配偶者居住権の評価額も高くなります。また、存続期間が「10年」や「20年」というように、期間が決められている場合は、基本的にはその年数で計算しますが、配偶者居住権を取得した配偶者が高齢で、平均余命の方が短くなるような場合は、その短い方の期間で計算します。

(3)配偶者居住権価額の計算方法(なお、詳細は国税庁のウェブサイトでご確認ください。)

居住建物の相続税評価額

居住建物の相続税評価額 × 耐用年数-経過年数-存続年数 × 存続年数に応じた法定利率による複利原価率
耐用年数-経過年数

5.配偶者居住権の登記

 配偶者居住権は、登記することができます。配偶者居住権の登記申請は、建物の所有権を相続した(遺贈を受けた)相続人と配偶者居住権を取得した配偶者との共同申請によります。登録免許税率は建物の固定資産税評価額の1000分の2となります。

 配偶者居住権は、登記することによって、第三者に対しても、自らの居住権を主張(対抗)することができます。また、不法占有者に対して妨害の停止を請求する権利や、返還を請求する権利を有します。

6.配偶者居住権のポイント

 配偶者居住権のポイントは、以下の通りです。
・2020年4月1日以降に開始した相続に適用されます
・遺産分割(協議・調停・審判)や遺贈によって成立します
・遺言による場合、2020年4月1日以降に作成された遺言でないと適用されません
・遺言による場合、対象が配偶者であっても「相続させる」ではなく「遺贈させる」と表記します
・戸籍上の配偶者のみが対象であり、内縁の配偶者は含まれません
・配偶者居住権は、登記をすることができます
・配偶者居住権は、相続税の課税対象となります
・配偶者短期居住権とは異なり、配偶者本人による使用以外に収益する権限もあります
・配偶者居住権は、譲渡をすることはできません
・配偶者は、居住建物の使用について善管注意義務(善良なる管理者としての注意義務)を負います
・配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築若しくは増築をし、又は第三者に居住建物の使用若しくは収益をさせることができません
・配偶者が上記の2つに違反した場合、居住建物の取得者は、相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、配偶者居住権を消滅させることができます
・配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕をすることができます
・存続期間は原則として終身ですが、期間を定めることも可能です
・配偶者居住権は配偶者の死亡または期間満了によって消滅します

○配偶者短期居住権とは

1.配偶者短期居住権とは

 こちらも、2018年7月の民法改正によって、あらたに認められるようになった権利です。「配偶者短期居住権」とは、被相続人の配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物(居住建物)に無償で住んでいた場合、最低6か月間は、引き続きその居住建物に無償で居住を継続することができる権利です。

 例えば、夫を亡くした妻が夫の死亡時に夫名義の建物に住んでいて、相続人全員による遺産分割協議の結果、その妻はその建物の所有権も配偶者居住権も取得できなかったとします。そうなると、建物を取得した相続人が、妻がその建物に居住を続けることを認めてくれればいいのですが、そうでない場合は、妻はその建物から出ていかなければならないことになります。

 また、夫が生前に、その建物を妻以外の相続人に相続させるとか、第三者に遺贈するという内容の遺言をしていた場合も、夫が亡くなってその遺言の効力が発生すると、妻はその建物から出ていかなければならないことになります。

 しかしながら、特に相続人である妻が高齢の場合には、住み慣れた建物を離れて新たな生活をするのは精神的にも肉体的にも大きな負担となりますし、当然、準備のための時間も必要となります。

 そのため、被相続人の配偶者が、相続開始時に被相続人が所有する建物(居住建物)に無償で住んでいた場合には、その配偶者がその居住建物の所有権や配偶者居住権を取得できなかった場合でも、最低6か月間は、引き続きその居住建物に無償で居住することができる権利が認められるようになりました。これを「配偶者短期居住権」といいます。

 配偶者が無償で居住を継続できる期間である「6か月間」については、遺産分割によってその居住建物の帰属が確定した場合は、その「確定日」と「相続発生日」の、いずれか遅い方の日からカウントします。また、それ以外の場合(被相続人の遺言によって居住建物の帰属が確定した場合など)については、居住建物の取得者が、配偶者に対して配偶者短期居住権の消滅の申入れをしたときからカウントします。

 配偶者短期居住権は、配偶者居住権とは異なり、その権利を成立させるのに、被相続人の遺言による指定や、相続人による遺産分割は不要です。被相続人の配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物(居住建物)に無償で住んでいた場合は、自動的に権利を取得します。ただし、配偶者が相続欠格に該当しまたは廃除によって相続権を失った場合を除きます。また、配偶者が居住建物の所有権や配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権を認める必要性がなくなりますので除かれます。

2.配偶者短期居住権のポイント

 配偶者短期居住権のポイントは、以下の通りです。

・2020年4月1日以降に開始した相続に適用されます
・成立条件を満たせば、遺産分割や遺贈によらずに成立します
・被相続人や配偶者以外の相続人の許諾や同意は必要ありません
・被相続人が死亡時に介護施設や病院に入所・入院していた場合でも成立します
・戸籍上の配偶者のみが対象であり、内縁の配偶者は含まれません
・配偶者短期居住権は、登記をすることはできません
・配偶者短期居住権は、相続税の課税対象とはなりません
・配偶者短期居住権は、譲渡をすることはできません
・配偶者は、居住建物の使用について善管注意義務(善良なる管理者としての注意義務)を負います
・配偶者は今まで通りに居住建物に住み続けることはできますが、居住建物取得者の承諾を得なければ、第三者に居住建物の使用をさせることはできません
・配偶者が上記の2つに違反した場合、居住建物の取得者は、是正の催告をする必要なく、配偶者短期居住権を消滅させることができます
・配偶者は、居住建物の使用に必要な修繕をすることができます
・配偶者が死亡した場合は、存続期間中であっても、配偶者短期居住権は消滅します
・配偶者が配偶者居住権を取得した場合は、配偶者短期居住権は消滅します。

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