遺言をすべき人は?

 前のページまでで、遺言についていろいろとご説明させていただきましたが、次のようなケースに当てはまる方については、早急に遺言を作成することを強くお勧めいたします。

 1.お子様のいないご夫婦の場合
 2.子供達で遺産分割協議をするのが難しいと思われる場合
 3.お孫さんや内縁の配偶者にも相続させたい場合
 4.親族が誰もいらっしゃらない場合

 5.会社経営者の場合

 これらのケースを一つずつ詳しく見ていきたいと思います。

■ ケース1 お子様のいないご夫婦の場合

 このケースでは、ご夫婦のどちらかが亡くなると、まず残された配偶者が相続人になります(このケースに限らず,配偶者は常に相続人になります)。

 被相続人にお子様がいない場合、残された配偶者とともに相続人になる可能性があるのは、故人(被相続人)の両親です。
 (ちなみに、自分よりも先の世代にある者を尊属といい、後の世代にある者を卑属といいます。)

 通常、被相続人がある程度の年齢(70~80歳)に達していれば、そのご両親は先に死亡しているケースが多いです。その場合には、更にもう一つ上の世代である被相続人の祖父母が相続人になりますが、当然、こちらもすでに死亡している確率が高くなります。

 そうなると、残された配偶者と、被相続人の兄弟姉妹が相続人となります。

 したがって、残された配偶者と被相続人の兄弟姉妹とで遺産分割協議を行い、誰が何を相続するのかを話し合って決める必要があります。

 遺言が無い場合、民法の法定相続分では、被相続人の配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1の割合で遺産を相続します。したがって、配偶者が遺産をすべて相続しようとする場合には、遺産分割協議を行うか、兄弟姉妹から遺産を相続しない旨(遺留分放棄や相続放棄)の書面に、署名と実印による押印が必要になります。
 しかし、被相続人の兄弟姉妹の協力が得られない場合には、相続財産の4分の1は、兄弟姉妹に相続させる必要があります。このとき、被相続人に充分な現金や預貯金がある場合には、それらを分配することで納得を得られる可能性はありますが、ご自宅の土地建物が唯一の財産であるような場合には、その土地建物を配偶者と兄弟姉妹で共有することになってしまい、様々な問題が生じる可能性があります。
 
 故人の兄弟姉妹が、相続に協力的な方ばかりとは限りません。むしろ、経済情勢は未曾有の大不況ですから、兄弟姉妹が経済的に困窮している可能性は十分にあります。主張できる権利があり、自分に少しでも財産が入るようなチャンスが目の前にあれば、欲しくなって当然といえます。
 残された配偶者が,『相続放棄してください』などと義理の兄弟姉妹を説得する相当に難しいのが現実です。

 さらに、被相続人の兄弟姉妹がすでに死亡している場合には、その子供(故人から見れば甥・姪)が相続人になる可能性も十分にあります。
 こうなると、残された配偶者にとって面識のない人が相続人に含まれる可能性も高くなるので、遺産分割協議を行うこと自体が難しくなってしまいます。

 しかし、配偶者にすべての遺産を相続させる旨の遺言を作成しておけば、被相続人の兄弟姉妹には遺留分(相続人固有の権利であり、遺言によっても奪えない遺産の保障)がないため、このような問題はすべてクリアできます。

 残される配偶者の生活を守るために、すべての遺産を配偶者に相続させてあげたいとお考えなら、夫婦ともお互いに相手に財産をすべて相続させる旨の遺言を、絶対に作成しておくべきです。

■ ケース2 子供達で遺産分割協議をするのが難しいと思われる場合

 被相続人が遺言書を作成せずにお亡くなりになった場合、相続人は誰がどの遺産を相続するのかを全員で協議(遺産分割協議)して決めることになります。

 しかし、相続人である子供達同士が不仲である場合、この協議を行うこと自体が難しいことになります。
 また、当事者である相続人同士は、お互いに争う意思がなくても、その配偶者や周りの親族が口出しをしてきて、感情的になり、骨肉の争いになることは珍しいことではありません。

 このような場合、親御さんが遺言を作っておけば、子供達同士が憎しみあうような事態は避けられたと思います。実は、親が遺言を作っておけば、ほとんどの場合、子供達は渋々でも、その遺言には従うのです。
 しかし、遺言がなく、遺産分割協議がまとまらない場合には、最後は家庭裁判所による調停又は審判に委ねられます。その解決を弁護士に依頼する場合、財産の額や「もめ方」によっても異なりますが、100万円単位の費用がかかることも珍しくないそうです。 

 精神的にも、感情的にも、金銭的にもデメリットしかありません。
 
 このような場合にも、やはり、遺言は作成しておくべきです。

■ ケース3 孫や世話になった内縁の妻、夫にも相続させたい場合

 自分が死亡した時に、子供達だけでなく、目に入れても痛くないお孫さん達にも、将来のために財産を遺してあげたいという場合もでてくると思います。
 ただし、お孫さんが相続人になるのは、子供(孫の親)が先に死亡している場合に限られます。
 それ以外の場合は、孫は相続人ではないので、自分が死亡した後に直接お孫さんに財産を遺すには、遺言によって相続させるという方法をとることになります。

 また、内縁の妻や夫に財産を遺したい場合も同様です。
 戸籍を入れていなければ、法律上の配偶者ではないため、相続人にはなることはできせん。
長年連れ添って、世話をしてくれた方にも財産を遺し,その生活を守ってあげたいという場合は,遺言によって相続させるという方法をとることになります。

■ ケース4 相続人が誰もいらっしゃらない場合

 相続人が誰もいない場合は、特別縁故者(とくべつえんこしゃ)に該当者がいなければ、最終的には遺産は国に帰属することになります。

 特別縁故者とは、内縁の配偶者のように長らく一緒に暮らしていた方や、身の回りの世話や看護をしてくれた方などが該当する可能性がありますが、その方自身で家庭裁判所に財産分与の申し立てを行い、さらに家庭裁判所から特別縁故者に対し財産を分与する審判を経なければならないという、使いにくい制度なのです。

■ ケース5 会社経営者の場合

 会社経営者の方は、土地や建物、自動車などの財産を、個人の名義ではなく会社の名義で所有されているケースが多いかと思います。
 この場合、相続財産は会社名義の土地や建物ではなく、その会社の株式と言うことになりますが、株式も相続財産となることから、その株式を誰に相続させるかが、事業を継続する上で重要なポイントとなってきます。
 
 もし、その経営者の方が、例えば長男に会社を継がせるつもりであり、また長男も親の会社の跡継ぎをする気持ちで、実際にすでに親の会社で働いていたとしても、株式はまだ親である経営者が過半数を保有しているというケースも、多いのではないでしょうか。

 この状態で、経営者の方が遺言を作成しないまま他界してしまうと、遺産であるその会社の株式は、法定相続分に応じて各相続人が取得するのではなく、相続人全員で共有することになります。
 例えば、発行済株式が300株で、うち200株を被相続人である経営者が、100株を長男が保有していた場合、相続財産になる200株の株式は、配偶者が100株、長男が50株、次男が50株の割合で相続されるのではなく、遺産分割協議が終わるまでは、200株の1株1株を、配偶者、長男、次男で共有することになります。
 そして、この200株の議決権は、3人の共有者の中から代表者を決めて、その代表者が行使することになるため、例えば次男が配偶者(母親)と結託して、長男を取締役から外すことも可能になります。
 
 また、たとえ後継者である相続人が、その会社から追い出されないまでも、株式を取得した他の相続人との折り合いが悪いような場合には、他の相続人が会社経営に口出しをして、会社の経営がうまくいかなくなったり、「お家騒動」のような状態となり、取引先や従業員にまで、多大な迷惑をかけることにもなりかねません。
 
 したがって、遺言で株式の相続人は後継者である相続人に指定し、他の相続人には土地建物や現金、預貯金を相続させるなどの対策が必要となります。

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