不動産の名義変更(相続登記)

○相続登記の重要性について

 相続が発生した場合、被相続人(亡くなった方)の名義で登記されている土地や建物などの不動産を、相続人名義に変える手続き(相続登記)が必要となります。

 「登記」とは、ある土地や建物について、所有者が誰か、あるいはその不動産に住宅ローンなどの抵当権が設定されているかについての記録で、法務局で登記事項証明書を所得したり、インターネット登記情報を調べることで、手数料を払えば誰でもその内容を確認することができます。

 不動産をいつまでも故人(被相続人)名義のまま放置していますと、その不動産の所有者が誰であるのかが公示されないため、以下のような問題が起こることがあります。

先祖 何十年もの間相続登記を放置した結果、名義人の子→孫→ひ孫と数世代にわたって相続が発生し、いざ相続登記をしようとした際に相続人の探索や遺産分割をするために大変な時間・費用・労力がかかってしまった。
売地 被相続人から遺言によって土地を譲り受けたが、それを不愉快に思った相続人が勝手にその土地を相続人名義に登記をしたうえで第三者に売却してしまった。そのため、その土地の権利を主張できなくなった。※
借金 土地の遺産分割がなかなかまとまらずにいたところ、被相続人の二男が借金返済に行き詰まり、その債権者が土地の相続登記を二男に代わって申請したうえで二男の法定相続分にあたる持分を差し押さえてしまった。
元号 先祖から代々相続してきた土地に、明治時代に設定された抵当権の登記が残っていた。ところが抵当権者は何十年も前に死亡しており、その相続人の存在や所在も不明のため、この登記を抹消したくてもできないでいる。
※民法改正により、遺言によって不動産を特定の相続人が相続した場合でも、その旨を登記しないと、第三者に対して権利を主張することができなくなりました。なお、相続人以外の人が不動産の遺贈を受けた場合も同様です。

 また、死亡保険金により住宅ローンが完済となって抵当権を抹消する際にも、その前提として上記の相続登記を行う必要がありますので、できるだけ速やかに行ってください。

 なお、今までは、相続登記は義務ではなく、期限もありませんでした。しかしながら、2021年の不動産登記法の改正により、正確な時期は未定ですが、今後数年以内に不動産の相続登記が義務化されることになりました。改正法が施行されると、不動産を取得した相続人は、その取得を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務づけられます。

○相続登記の申請方法

1.相続登記に必要な書類の収集

 相続登記に必要な書類は、遺言の有無や、どのように遺産分割の協議が行われたかによって異なってきます。なお、相続登記の申請には、その不動産を過去に被相続人が取得した際に発行された登記済証(権利証)や登記識別情報通知書は、原則として必要ありません。そのため、これらの書類が見当たらない場合でも心配はご無用です。(例外的に、被相続人の登記記録上の住所と死亡時の住所が異なり、住所変更が住民票や戸籍の附票で証明できない場合には、必要となる場合があります)

1)法定相続人が一人の場合または法定相続分で相続をする場合

・被相続人の出生から死亡までの連続する戸籍謄本・除籍謄本・原戸籍謄本(※)
・被相続人の登記簿上の住所の記載がある住民票写しもしくは戸籍の附票
・法定相続人全員の戸籍謄抄本(※)
・法定相続人全員の住民票写し
・相続関係説明図
・相続する不動産の固定資産税評価証明書

※被相続人や相続人の戸籍謄本・除籍謄本・原戸籍謄本については、法定相続情報で代用できます。

2)遺産分割協議で決めた割合で相続をする場合

・被相続人の出生から死亡までの連続する戸籍謄本・除籍謄本・原戸籍謄本(※)
・被相続人の登記簿上の住所の記載がある住民票写しもしくは戸籍の附票
・法定相続人全員の戸籍謄抄本(※)
・協議により不動産を取得した相続人の住民票
・相続関係説明図
・相続する不動産の固定資産税評価証明書
・遺産分割協議書(法定相続人の実印を押印)
・法定相続人全員の印鑑証明書

※被相続人や相続人の戸籍謄本・除籍謄本・原戸籍謄本については、法定相続情報で代用できます。

3)被相続人が遺言を作成しており、その遺言に基づいて相続をする場合

・遺言者の死亡の記載のある戸籍謄本
・被相続人の登記簿上の住所の記載がある住民票写しもしくは戸籍の附票
・遺言により不動産を取得した相続人の住民票
・相続する不動産の固定資産税評価証明書
・遺言書(※)
・遺言執行者または法定相続人全員の印鑑証明書
・(法定相続人全員の戸籍謄抄本)

※公正証書遺言の場合はその正本(公証役場で発行)
※自筆証書遺言(遺言書保管制度を利用)の場合は遺言書情報証明書(法務局で発行)
※自筆証書遺言(上記以外)の場合はその原本と検認調書(家庭裁判所で発行)

2.申請書の作成

 登記申請書の内容は相続人や遺産分割の状況によって異なります。
司法書士に依頼する方が、正確かつ速やかに実行できることでしょう。

3.相続登記の申請

 登記申請書と収集した書類をまとめ、相続する不動産を管轄する法務局に登記申請をします。
提出した書類に不備がなければ1週間~2週間程度で登記が完了し、不動産の名義が変更されたことになります。
なお、登記が完了した後に、登記識別情報(従来の登記済み権利証に代わるもの)や返却された戸籍謄本などを受け取り、登記事項証明書で変更された登記の内容を確認します。

4.相続登記の費用

 登記を申請する際には、登録免許税の納付が必要になります。登録免許税は「相続」を原因とする所有権移転登記の場合、固定資産税評価証明書に記載されている不動産の価額に1000分の4(0.4%)を乗じた価格、「遺贈」を原因とする所有権移転登記の場合、1000分の20(2.0%)を乗じた価格となります。

 また、上記の戸籍謄本や住民票、印鑑証明書の発行費用や、これらを郵送で請求する場合の郵送料や小為替手数料、登記申請の前後に登記事項の確認のために取得する登記事項証明書等の請求費用などがかかります。

 さらに、これらの事務を司法書士に依頼する場合は、各事務所ごとに定められた報酬の支払いが必要となります。(なお、当事務所の報酬額表はこちらでご確認ください。)

○未登記建物・農地・森林の相続届

1.未登記建物の相続手続

 不動産の登記記録には、「表題部」「甲区」「乙区」という欄があります。「表題部」には、土地であれば「所在」「地番」「地目」「地積」などが、建物であれば「所在」「家屋番号」「種類」「構造」「床面積」などが記録されます。また、「甲区」にはその不動産の所有権に関する事項が、「乙区」にはその不動産の所有権以外の権利(抵当権・賃借権など)が記録されます。

 このうち、「表題部」の登記は法律上は義務となっており、違反すると過料が課されることになっています(もっとも、実際に過料が課された例はあまり聞かないですが)。しかしながら、現実には被相続人の遺産の中に、登記されていない建物(未登記建物)が含まれている場合があります。

 また、一般に、(広義の)未登記建物には、
(1)表題部のみが登記されているが、所有権が登記されていない建物
(2)表題部も登記されていない建物(狭義の未登記建物)
(3)登記された建物の増築部分や附属建物が未登記となっている場合
の3種類があります。

 上記のうち(1)については、その表題部に「所有者」として記録されている人が被相続人の場合は、前述の相続登記に必要な書類とほぼ同様の書類を添付して、管轄の法務局に相続人名義の「所有権保存登記」を申請することになります。また、「所有者」として記録されている人が被相続人のさらに先祖などの場合は、その「所有者」の出生から死亡までの戸籍謄本等や、その「所有者」の相続人の戸籍謄本等や印鑑証明書、遺産分割協議書などを添付して、同様に相続人名義の「所有権保存登記」を申請することになります。なお、これらの登記申請を専門家に依頼する場合は、司法書士に依頼することになります。

 一方、上記のうち(2)については、まず、建物の表題部を登記する必要があります。この場合は、前述の相続関係の必要書類に加えて建物の図面なども必要となりますが、表題部の登記申請を専門家に依頼する場合は、土地家屋調査士に依頼することになります。そして、表題部の登記が終わった後で、司法書士に依頼して「所有権保存登記」を申請することになります。しかしながら、これらの手続きには費用がかかるため、財産的価値の低い老朽化した建物や取り壊し予定の建物については、あえて登記をせずに、そのままにしておくこともあるようです。このような場合には、とりあえずは市町村役場の税務課に「建物所有者変更届」を出すことによって、次年度以降の固定資産税の支払い義務者を届けておくことになります。

 上記のうち(3)の場合は、まず、登記された建物の相続登記を申請して相続人名義に変更してから、建物の表題部の変更登記申請をすることになります。この登記申請を専門家に依頼する場合は、相続登記については司法書士に、表題部の変更登記については土地家屋調査士に依頼することになります。

 なお、上記(1)と(2)の未登記建物については抵当権を設定することができませんし、(3)の場合も金融機関の融資審査の際に問題となることがあります。そのため、相続した建物をリフォームする費用を金融機関から借りるような場合は、表題部の登記や所有権保存登記、相続による所有権移転登記(相続登記)などを、きちんと行っておく必要があります。

2.農地の相続届

 農地を相続によって取得した場合は、農業委員会への届出が必要です。届出をしなかったり、虚偽の届出をした場合は過料が課されることになっています。届出の期間は権利を取得したことを知った日から10か月以内です。

 ここでいう農地とは、登記地目もしくは現況が農地(田・畑)の場合をいいます。つまり、登記地目が畑でも現況が雑種地の場合や、登記地目が雑種地でも現況が畑の場合でも、どちらも届出が必要となります。ただし、地域により扱いが異なりますので、地元の農業委員会に確認する必要があります。

 この届出は、農地の相続登記をしたあとに行います。届出の際には指定された届出書に、相続登記が完了したことを証明するための資料(登記完了証・登記事項証明書など)の写しを添付して、管轄の農業委員会に提出します。

 なお、被相続人の遺贈(遺言による贈与)によって農地を取得した場合は、その遺贈の内容が「包括遺贈」か「特定遺贈」かで異なります。「包括遺贈」とは、遺贈する財産を特定せず、遺産の全部又は一部を文字どおり包括的に遺贈することで、たとえば「自分の財産の3分の1を〇〇に遺贈する」というように、遺産に対して一定の割合を示して遺贈する方法です。これに対して、「特定遺贈」とは、たとえば「金沢市○○町○○番の畑を〇〇に遺贈する」というように、財産(農地等)を具体的に特定して遺贈する方法です。

 農地を「包括遺贈」によって取得したときには、農業委員会への「届出」が必要ですが、「特定遺贈」によって取得しようとする場合は、農業委員会の「許可」が必要となります。そして、許可を取るには、取得後の農地すべてについて耕作することや、必要な農作業に常時従事すること、取得後の経営面積が一定面積以上となることや、住所地から農地までの距離等から効率的に耕作できることなどの条件を満たす必要があります。そして、不許可になると、たとえ被相続人の遺言によって農地を譲り受けたとしても、その農地の所有権を取得することはできませんので、注意が必要です。

3.森林の相続届について

 平成23年4月の森林法改正により、平成24年4月以降、森林の土地の所有者となった方は市町村長への事後届出が必要になりました。個人、法人を問わず、売買や相続等により森林の土地を新たに取得した方は、面積に関わらず届出をしなければなりません(ただし、国土利用計画法に基づく土地売買契約の届出を提出している方は対象外です)。

 届出の対象となる土地は、都道府県が策定する地域森林計画の対象となっている森林です。登記上の地目によらず、取得した土地が森林の状態となっている場合には、届出の対象となる可能性が高いので注意が必要です。
地域森林計画対象森林に該当するかどうかは、当該土地の存する都道府県か市町村の林務担当部局にお問い合わせください。

 届出期間は、土地の所有者となった日から90日以内です。取得した土地のある市町村の長に届出をしてください。

 届出書には、届出者と前所有者の住所氏名、所有者となった年月日、所有権移転の原因、土地の所在場所及び面積とともに、土地の用途等を記載します。添付書類として、登記事項証明書(写しも可)又は土地売買契約書など権利を取得したことが分かる書類の写し、土地の位置を示す図面が必要です。

相続・遺言の初回相談無料 石川、富山、福井の方 0120-316-929 受付時間:9:30~17:30 休日:土日祝 上記以外の地域の方はこちら 076-251-5982 ※予約専用です。お電話による相談は承っておりません。