遺産分割の調停・審判
○遺産分割調停とは
遺産分割のことで揉め始めると、遺産とは直接関係のない過去の恨み辛みの話が出てきたりして当事者が感情的になり、収拾がつかなくなることがあります。そこで、遺産分割協議が当事者だけではまとまりそうにない場合には、家庭裁判所に「遺産分割調停」や「遺産分割審判」を申し立てて、解決を図るという方法があります。
このうち、遺産分割調停は、とりあえず、中立の第三者である調停委員に間に入ってもらって、話し合いによって遺産分割に関する紛争を解決し、合意を成立させようとする制度です。
遺産分割調停は、相続人のうちの一人もしくは複数名が、管轄の家庭裁判所に申立書や添付書類(戸籍謄本や遺産に関する証明書など)を提出して行います。なお、被相続人から遺言によって財産をまるごと(もしくは一定の割合で)譲り受けた人(包括受遺者)や、相続人から相続分を譲り受けた人も、申立人となることができます。
提出先の家庭裁判所(管轄の家庭裁判所)については、相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所か、当事者が合意で定める家庭裁判所となります。被相続人の最後の住所地や申立人の住所地ではないので、注意が必要です。もっとも、相手方が複数いる場合には、そのうちの一人の住所地の家庭裁判所でいいので、そのなかで申立人にとって一番交通の便の良いところを選ぶことはできます。そのため、例えば、相続人がABCの3名で、同じ市内に居住するAとBの間ではおおむね合意はできているが、遠方に住んでいるCだけが強硬に反対しているような場合、AとBを申立人、Cを相手方にすると、Cの住所地の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるか、Cと合意して中間地点の裁判所で申し立てることになりますが、Aだけを申立人にして、BとCを相手方すれば、Bの住所地(Aも同じ市内に居住)の家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
遺産分割調停を申し立てると、第1回目の期日が指定されます。裁判所なので、期日は平日の日中です。原則的には管轄の裁判所に当事者本人や代理人弁護士が出廷しますが、遠方の当事者については、最寄りの裁判所に出廷したうえで、その裁判所と管轄の裁判所を電話でつなぐことで、参加することもできます。(また、新型コロナウィルス感染拡大地域では、裁判所の調停室から当事者の自宅や代理人弁護士の事務所に電話をかけることで、参加することが認められる場合もあります。)
期日に出廷すると、通常、申立人と相手方は、別々の控室で待機させられます(相手方が複数いる場合は、利害対立のない者同士でグループ分けがなされることもあります)。そして、まずは申立人が調停室に入って、担当の調停委員に対して、遺産分割に関する自分の考え方や希望を述べます。その後、申立人はいったん控室に戻り、今度は相手方が調停室に入って、遺産分割に関する自分の考え方や希望を述べます。これを交互に繰り返すことで、申立人と相手方が直接顔を合わせないようにして進めていきます。なお、調停室に入れるのは当事者本人と代理人弁護士に限られます。
調停委員は、それぞれの相続人の言い分を平等に聞いて、利害関係の調整に努めたり、時には具体的な解決策を提案したりして、話し合いで円満に解決できるようにあっせんを行います。
調停委員は、それぞれの相続人の言い分を平等に聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり、遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、利害関係の調整に努めたり、時には具体的な解決策を提案したりして、話し合いで円満に解決できるようにあっせんを行います。
遺産分割調停は、1回の期日で合意が成立することはあまりなく、2回~5回で終わるのが約半数、6回~10回で終わるのが約4分の1となっております。
当事者間で遺産分割についての合意が成立すると、調停成立となります。後日、家庭裁判所から「調停調書」が各当事者に送付され、この調停調書を遺産分割協議書の代わりにして、不動産の相続登記や預貯金の解約手続きなどを行うことになります。
話合いがまとまらずに調停が不成立になった場合は自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります。
○遺産分割審判とは
調停手続が不調の場合、つまり話し合いがまとまらなかった場合、家庭裁判所は引き続き事件を審判手続に移し、法律にしたがった裁判所としての判断を下します。なお、「話し合っても無駄」ということで、最初から遺産分割調停ではなく遺産分割審判を申し立てることも可能ですが、家庭裁判所の職権で、まずは調停に回されることが多いです。
審判では調停のように、相続人同士の話し合いが行われることはなく、家庭裁判所が各人の事情を聞き取り、公平に判断して、審判を下すことになります。このときは、それまでに行われた調停の内容や当事者の生活状況・遺産分割の希望などを参考にするほか、必要に応じて相続人や遺産の内容についての事実関係を調べたり、相続人の主張の正当性を確かめることも行なわれます。
審判手続きが進んで十分に主張や資料の提出が行われたら、裁判官が審判を下します。審判は書面によって行われるので、裁判所に行く必要はありません。最終の審判期日が終了してからしばらくすると、自宅宛てに審判書が届きます。
下された家庭裁判所の審判には強制力があり、当事者はこれに従わなければなりませんが、不服のある当事者は審判書を受け取ってから2週間以内に「即時抗告」を行うことは可能です。
審判に対して当事者が誰も即時抗告しなかった場合は、審判が確定します。確定したらその内容に従って不動産の名義変更や預貯金払い戻しなどの相続手続きを進めます。その際には「審判書」のほかに「確定証明書」も必要となりますので、管轄の裁判所に申請して証明書の交付を受けます。