遺産分割の種類と方法
○遺産分割の種類
1.指定分割
亡くなった人(被相続人)が遺言で遺産分割の指定を行っていた場合、遺産はその内容にしたがって自動的に相続されます。これを「指定分割」といいます。例えば、「甲土地は長男Aに、乙建物は二男Bに相続させる」という内容の法的に有効な遺言書がある場合は、ABあるいはその他の法定相続人の間であらためて遺産分割協議を行わなくても、被相続人(遺言者)の死亡と同時に、甲土地は長男Aが、乙建物は二男Bが、それぞれ相続します。
ただし、相続人全員の合意があれば、あらためて遺産分割協議(協議分割)をすることもできます。そのため、例えば長男Aや二男Bが甲土地や乙建物を取得することを希望しないような場合は、あらためて相続人全員で遺産分割協議を行って、長男Aが乙建物を、二男Bが甲建物を取得することもできます。
また、遺言で指定されていない財産の帰属を決める場合や、遺言の内容が「遺産のうちの3分の2をA、3分の1をBが相続する」というように、単に割合を指定するような内容の場合には、あらためて、その割合に応じつつ、具体的にどの遺産をAやBが取得するかについて、遺産分割協議を行うこともできます。
2.協議分割
一方、亡くなった人(被相続人)が遺言をしていない場合、その人の遺産(不動産や預貯金など)は、いったん法定相続人が法定相続分で共有することになります。しかし、このままでは遺産を使ったり売ったりするのに不便なので、あらためて、誰がどの遺産を相続するのかを相続人全員の合意によって決めることができます。これを「協議分割」といいますが、単に「遺産分割」という場合には、おおむねこの「協議分割」のことをいいます。また、そのための話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。
遺産分割協議は、必ず相続人全員で行う必要があります。一部の相続人を除外したり、無視をした場合は、協議は無効となります。その際に、相続人の一部に認知症の人、未成年者、行方不明の人の人が含まれていて、そのままでは協議ができない場合は、あらかじめ家庭裁判所で所定の手続きを行う必要があります。
なお、遺産分割については、相続人全員の合意があれば、必ずしも法定相続分にしたがう必要はなく、相続財産を自由に分けることができます。
○遺産分割の方法
1.現物分割
現物分割とは、遺産そのものを現物で分ける方法です。例えば、相続人が被相続人の子ABCの3名で、「甲土地をAが、乙建物をBが、丙会社の株式をCが、それぞれ単独で取得する」といった分け方です。
しかし、現実には、各相続人が取得する財産の価値が、各相続人の法定相続分に比例するとは限りません。上記の例で、甲土地や乙建物や丙株式の価値が等しいとは限りません。そこで、このような場合は、被相続人の現金や預貯金の分配方法でバランスをとることが多いといえます。
ところが、被相続人の遺産に占める現金や預貯金の割合が少ないと、バランスを取ることが難しくなります。割と多いのは、めぼしい遺産が被相続人の自宅の土地建物しかなく、現金や預貯金はあまりないという場合です。このような場合は、後述する換価分割や代償分割など、他の方法を検討することになります。
2.換価分割
換価分割とは、土地や建物など現物分割に不向きな遺産を売却して、その代金を分割するという方法です。極端な話、遺産全部を売却して現金化してしまえば、それこそ1円単位で法定相続分に比例した遺産分割が可能となります。
しかしながら、現実には、例えば被相続人が所有していた自宅に被相続人の配偶者や長男が居住していたというような場合は、その自宅を売ることは難しいでしょうし、被相続人の死亡によって自宅が空き家になったとしても、その自宅の建物が古くて耐用年数が過ぎたボロ家であったり、場所がへき地にあって売っても買い手がつかないような場合もあるでしょう。被相続人の遺産に田畑や山林、原野が含まれるような場合も、同じ問題が生じます。
そのため、遺産をすべて換価分割で分けることができる場面は、遺産が預貯金や上場株式、流通性の高い不動産で構成されていて、売却に反対する相続人がいないといったような条件を満たす場合に限られてきます。
もっとも、前述の現物分割との組み合わせで、現物分割で生じがちな遺産の価額の差を、遺産の一部のみを換価して得た代金で穴埋めしてバランスをとるといったやり方は、割とよく行われています。
3.代償分割
代償分割とは、土地や建物などの遺産を相続人の一人が取得する代わりに、その相続人から他の相続人に対して法定相続分に相当する現金(代償金)等を支払うという方法です。
例えば、被相続人の自宅の土地建物や預貯金を含む遺産全部を長男が単独で取得する代わりに、二男や長女には、それぞれの法定相続分に相当する現金を支払うという方法です。その際に、被相続人の現金や預貯金だけでは代償金を賄いきれないような場合は、長男が自腹を切って自らの預貯金などから支払うことになります。
そのため、被相続人の遺産に占める現金や預貯金などの割合が少ないような場合は、代償金を支払う側の相続人(先の例では長男)がある程度の支払能力を持っていないと、この方法はとれないことになります。
また、代償金の金額を決める際には、遺産全体の評価を行う必要があります。現金や預貯金は額面通りでいいですし、上場株式も(いつの時点で評価するかの問題はありますが)金額の算定はしやすいと思われます。しかし、不動産や非上場株式となると、評価をどう行うかの問題が生じます。代償金を支払う側の相続人としては、なるべく低く評価した方が、支払う代償金の額が少なくて済みますが、代償金をもらう側の相続人としては、なるべく高く評価した方が、もらえる代償金の額が多くなります。
そのため、代償分割を採用する場合は、まずは遺産の評価方法について、相続人全員で協議をする必要があります。また、代償分割をする際は、必ず代償金の支払先や額についても、遺産分割協議書に明記しておきます。これをしないと相続人同士での単なるお金の贈与とみなされ、税務署から贈与税を課される可能性があるためです。
なお、代償分割についても、上記の現物分割や換価分割と組み合わせて行うこともあります。例えば、「甲土地をAが、乙建物をBが、丙会社の株式をCが、それぞれ単独で取得する」という現物分割を基本としつつ、そこで生じた遺産の価額の差については、丁銀行の預貯金を換価してバランスをとり、それでも不公平が生じた分については、価値の高い遺産を取得した相続人から他の相続人に対して自腹で代償金を支払うというやり方です。
4.共有分割
遺産を複数の相続人で共有するという方法です。例えば、被相続人のめぼしい遺産が不動産しかないような場合に、その不動産を相続人が法定相続分に応じて共有するという方法です。
ちなみに、被相続人が遺言をしていない場合、その人の遺産(不動産や預貯金など)は、いったん法定相続人が法定相続分で共有することになりますが、この状態を「未分割共有」とか「遺産分割未了共有」いいます。つまり、遺産分割協議を行う前に、民法の規定によって「とりあえず共有」されている状態です。これに対して、共有分割は、相続人全員で遺産分割協議をした結果として、「あえて共有にした」状態をいいます。
共有分割は、対象の財産を各相続人の法定相続分に比例させた持分にすることで、ある意味では公平に遺産分割をすることができますが、遺産自体を共有することで、例えばそれが不動産であれば、その後の利用方法や、税金や維持費の負担をどうするのかといった問題で、各相続人(共有者)の意見が一致せずに、後になってケンカのタネになってしまうことも多いです。そのため、なるべくなら避けた方がいい方法といえます。
もっとも、換価分割の前提として、遺産の一部のみを共有にしておくといった活用方法はあります。例えば被相続人の死亡によって空き家となった自宅を売却する際、登記名義が被相続人のままでは死者名義のため売れないので、いったん相続人名義に変更(相続登記)してから売ることになりますが、その際に、名義をとりあえず相続人のうちの一人の名義にしておくものの、売却後の代金については各相続人で分配するという方法と、名義を相続人全員の共有名義にしておいて、売買代金もその持分の割合に応じて分けるという方法があります。前者の方法では、売買契約や登記申請を相続人のうちの一人が行うので、手続きは迅速に行えますが、不動産を売却した際に譲渡益が発生した場合、その相続人代表者だけに所得税が課税されてしまうという問題があります。一方、後者の方法では、売買契約や登記申請を相続人全員で行うので、例えば日程調整などが煩雑になりますが、不動産売却の譲渡益に対する所得税は相続人全員に持ち分に応じて課税されるため、公平性を保ちやすいというメリットがあります。