新たな事業承継税制
平成20年2月に「中小企業における経営承継の円滑化に関する法律案」が国会に提出されました。
これを受け、平成21年度税制改正で「取引相場のない株式などに係わる相続税の納税猶予制度」を中心とする事業承継税制が創設されました。
税制改正の背景
1)民法上の遺留分による制約がありました
これまでは、生前贈与で後継者に移転した自社株式についても、遺留分の基礎財産に加えられるため、他の相続人から遺留分侵害分を取り戻されることがよくありました。
要するに、自社株式などを後継者へ移転した分は、遺留分権利者から遺留分の減殺請求をされた場合に、遺留分の算定の基礎財産に加えられ、遺留分侵害分が後継者ではない相続人に移転する危険性があったのです。
また、現行の税法では、相続税の算定時に合算される額は贈与時の評価額ですが、民法上の遺留分の算定では「相続開始のときにおける価額」となっています。
そのため、生前贈与後に後継者の貢献により株式価値が上昇すると、上昇した分だけ相続時点の遺留分減殺請求の額が増え、後継者の事業承継意欲を阻害していました。
2)相続税の納税資金が捻出できないケースがありました
相続により事業承継がなされる場合に、相続財産の大部分が、事業用の不動産と自分が運営する会社の株式であるというケースがよくあります。この場合に、それらの資産を処分して換金すると言うことができないため、相続税を支払うことができないという問題が頻発していました。
円滑化法による事業承継税制で何が変わったか?
「経営承継円滑化法」は事業承継の阻害要因だった民法の遺留分制度に対しての特例です。
また、「株式等に係る納税猶予制度」は、事業承継の阻害要因だった相続税負担に対しての納税猶予措置なのです。上記の2つの課題に対して、以下の導入効果が期待されています。
1)遺留分に関する民法の特例
この制度を活用することによって、一定の要件を満たす後継者へ先代経営者から贈与された自社株式、その他一定の財産について、遺留分算定の基礎財産から除外できるようになります。
その結果、事業承継に不可欠な自社株式などの生前贈与が確実に行えるようになります。
また、改正により遺留分の算定時に、生前贈与株式の額を当該合意時の評価額であらかじめ固定できるようになります。
その結果、生前贈与後の後継者の貢献による株式価値上昇分は遺留分減殺請求の対象外となり、後継者の経営意欲も阻害されなくなります。
2)非上場株式等についての相続税の納税猶予の特例
事業承継税制では、会社の運営に必要な株式は、最大でその税額の80%に対応する相続税について、納税が猶予されます。納税猶予を受けた後継者が死亡した場合や、経営承継円滑化法の規定に従った方法で次の後継者に株式を贈与することで、納税猶予を受けていた相続税の納税が免除されます。
つまり、事業承継に必要な株式の最大80%部分については、後継者へ相続であったり、生前贈与を続けることで、相続税の負担はなくなることになります。